或る詩人の最後のうた


細い糸を一つ切り裂いた
あっけなく 容易く壊れた
なんのために うたは在ったの?
君ひとり 守れやしないのに


嘘みたいに 優しく手をとって
「何処へ行こうか?」なんて微笑った
泣きそうな顔で応えた君は
きっと全部わかっていた

それでも朝の光は昇り
それでも夜の帳は下りる
たた穏やかに 美しいままに
名づけられた楽園は陥ちる

どうか僕を赦さないで
僕のために笑ったりしないで
君のすべてを僕はこの手で
遥か永遠に閉ざしてしまったのだから
(それがあなたの答えならば
寄り添うことがわたしの願い
だから どうか もう泣かないで
これはわたしが望んだ物語)

あいしているよ たったひとりの君へ
何時までも幸福の詩を紡ごう
もう二度と 寂しさなんて知らなくていいから
この夢が果てるまで

なんのために うたは在ったの?
君ひとり 救えやしないのに


朽ちた花を 君が嘆かぬように
そっと 目を塞いだ
嘆きの声が 君を傷つけぬように
そっと 耳を塞いだ

「何処へ行こうか?」
「あなたとなら何処へだって」
何処まで 何時まで この手を繋いでいける?
重ねた指先が かすかに震えた
音もなく一片の花が散っていく

あいしているよ どんな昏い夜も
君が望む夢を灯し続ける
宿命も意味も約束も要らない
いつかこの名を忘れてしまえばいい

それはまるで 最初から此処には
君と僕しかいないみたいに


あいしているよ この空が落ちても
星を巡る風が消えたとしても
物語を さあ 閉じようか
壊れゆく世界に捧ぐ 最後の鎮魂歌

なんのために うたは在ったの?
ただ 君に笑ってほしかった


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