紅夜 -終わりと始まりの夜-


ひとつの言葉を守るには 人は儚いものだから
震える心を閉ざして ただ歌う

たった一人で守るには その手はとても小さいから
フィトゥアルを胸に抱いて 奏でるこのうたが
今 あなたの支えとなるように

それはささやかな願いでした あの日 あなたに逢うまでは
(春告げる小さな花 あなたに見せてあげたいと)
決して重なることのない寂しさが 世界を蝕む
(ひたむきな心が いつしか滅びの扉を開く)

最果ての森が燃える 掴みかけた記憶は遠く
(うたが消えていく 遠い日にあなたが遺した優しいうた)
深い傷跡を誰も癒せはしない
(寄り添う風の音さえやんで)
あなたの声が もう思い出せない
何もかもが戻らない なんのために歌うの?
(誰のためにこの夢を紡げばいいの?)
ひとつの物語の終りは すべてが紅く染まる夜


嘆きの空に降りしきる 冷たい雪の街角で
少女は静かに瞳を閉じた

歌声 途絶えたその森に やがて少年は背を向けて
歩き出す 幼い横顔
濡れたその頬に手を伸ばして ただ触れてあげたくて

どうかあなたは泣かないで
(瞳の奥に映る儚い横顔は)
いつか凍えた掌を包むために 小さな花 ひとひら抱いて
(もう思い出すことさえもできない)
ここにいるから
(どこにもいない)

最果ての森が閉じる 残されたひとつだけの希望(おと)
(謳われぬ世界は 花の枯れるように やがて朽ちるのでしょう)
それでも この片隅から見上げた空が
遠く 遠くあなたへ続くのならば
何もかもをなくしても
(忘れてもいい なくしてもいいから)
どうかもう一度 逢えますように
ひとつの物語が始まる すべてが紅く染まる夜


嘆きの空が明けていく 真白に染まる街角で
少女は静かに瞳を…

BACK

inserted by FC2 system